大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和25年(モ)2716号 判決

債権者(十名選定当事者) 神山文一

債権者(六名選定当事者) 市村恒二

債務者 池貝鉄工株式会社

一、主  文

昭和二十五年六月十五日当裁判所が右当事者間の昭和二十五年(ヨ)第三号仮処分申請事件につきなした仮処分決定中別紙第一選定者A目録記載の選定者外九名に関する部分はこれを取消す。

債権者Aの本件仮定処分申請はこれを却下する。

右仮処分決定中別紙第二選定者目録記載の選定者a外五名に関する部分はこれを認可する。

訴訟費用はこれを二分しその一を債権者らの負担としその余を債務者の負担とする本判決は第一項に限り仮にこれを執行することができる。

二、事  実

(一)  申請の趣旨と答弁の趣旨

債権者代理人は、昭和二十五年六月十五日当裁判所がなした仮処分決定を認可するとの判決を求め、債務者代理人は、右決定を取消す債権者の仮処分申請を却下するとの判決を求めた。

(二)  債権者の主張

債権者代理人は、申請の理由として、次の通り述べた。

第一、債務者(以下会社という)は、肩書地に本店をもつほか、三田、神明、川口、溝ノ口に各工場をもちその従業員は会社の利益代表者を除いて、本店及び各工場ごとにそれぞれ池貝鉄工本店労働組合、全日本金属労働組合東京支部池貝鉄工三田工場分会(以下三田分会という)池貝鉄工神明工場労働組合(以下神明組合という)全日本金属労働組合埼玉支部池貝鉄工川口分会及び全日本金属労働組合神奈川支部池貝鉄工溝ノ口分会をその事業所の唯一の労働組合として組織し、更に右各組合は、会社と共通事項に関し統一的な団体交渉をするため池貝鉄工労働組合連合会(以下連合会という)を組織し、右単位組合は各自連合会と連名の上で会社との間に、昭和二十四年八月二十日有効期間を一箇年とする統一的な同一内容の労働協約を締結しているのである。別紙第一選定者目録記載のものは、三田分会の組合員であり、別紙第二選定者目録記載のものは神明組合の組合員であるところ、会社は、昭和二十四年十二月十一日右のものを含む従業員二百三十八名に対し、同月十三日附で解雇する旨の意思表示をなしたのである。

第二、然しながら、別紙第一、第二選定者目録記載のものに対する右解雇の意思表示はいづれもその効力を生じない。前記連合会は事実上の組織に過ぎないもので規約もないものであるが、会社は昭和二十四年十一月十七日連合会に対し、「人員整理を含む会社経営方針」を発表したので、連合会としては、このような従業員の地位に重大な影響を及ぼす経営方針については前記労働協約第二十四条により会社と組合との間で協議決定すべきものとの見地から、人員整理の必要があるかどうかを知るために右経営方針について協議を申出たが、会社は、人員整理は既定の事実であるとしその後の数次の交渉においても経営方針については組合の意見をきかず終始整理基準の審議のみを強行し、十二月八日の協議会において一部組合から整理基準及び退職条件に対する意見が述べられたが、結局同月十日午前十二時七分連合会は、本店、溝ノ口、川口の各組合は人員整理は已むを得ないとしても退職条件に異議ある旨三田、神明の各組合は人員整理も納得出来ない旨回答すると共に今後も協議をつづけたい旨回答した。ところが其の四十分の後、会社は経営権の発動を宣言し、前記の通り解雇の意思表示をなすに至つたのである。従て、

(イ)  会社は労働協約の二十四条により、経営方針の変更については組合と協議をしなければならないのに、これをしないで人員整理を含む経営方針をきめ、これに基いて前記解雇をしたのであるから、これは無効である。

(ロ)  また、整理基準がきまつても、労働協約第二十四条第二十五条により、会社は基準えの当てはめについて組合と協議の上決定しなければならないのに、これをしないで、被解雇者をきめて解雇したのであるから、これは無効である。

一、なお、連合会は、その出発のはじめには規約をもち単位組合の連合体としての実質と形式とを持つていたが、昭和二十一年各単位組合が全日本機器に加入するとともにその傘下の連合体となりそれまでの規約を破毀した。そして規約をもつべく審議したがまとまらないうちに昭和二十四年三月本店及び神明の組合が全日本機器の後身である全金属を脱退したので連合会の性格は一変したが規約は作られないままに今日に至つたのである。連合会が規約はもたないが、労働組合の連合体であることは争わないが、規約をもたない位であるから、単一組合のような統制力がなく、唯可能な限り統一的行動をとるための共同闘争機関であつたに過ぎない。従て単位組合から特別の委任のない限り、連合会は団体交渉上決定権をもたないもので、会社との前記交渉において、連合会は特別の決定権を与えられていないから、会社は、連合会との交渉が出来ない場合は各単位組合と交渉しなければならないもので、連合会との交渉が不成立に終つたからとて、単位組合との交渉が不成立に終つたことにはならない。

二、労働協約第二十四条の協議決定というのは、双方で慎重審議し、かつ双方の承認により決定される場合をいうのであつて、同意と同じ意味である。会社が前記のように十一月十七日連合会に対し経営方針を発表したのは、連合会と協議するための会社案の提示ではなく、これを動かし難いものとして、唯説明のため提示したもので、会社は経営方針に関する協議を省略して来たものである。この経営方針こそは、協約第二十四条の経営方針に当るものであるから、これについての協議の省略は協約違反である。

第三、前記被解雇者の中で、現に組合役員であつたものが二十六名あつて、その解雇の比率は組合役員について特に高率であり、別紙第一、第二選定者目録記載のうちK、M、Rは職場委員であつたもの、その他のものはいずれも執行委員以上の役にあつたもので、いずれも組合活動を活溌にしてきたものであるので、会社の前記解雇はこれを理由とするにほかならないから、これは労働組合法第七条第一号に違反して無効である。

第四、よつて、債権者は、前記解雇が無効でなお会社の従業員たる地位を有するので、その法律関係の確定の訴を提起せんとするものであるが、本訴判決確定まで、今日のインフレーシヨンと失業時代に、生活をおびやかされ従業員であるのに拘らずそうでないとして取扱われる精神的物質的の不利益は、償うことの出来ぬものであるので、本件仮処分申請をなすに至つたものである。

(三)  右主張に対する債務者の認否と主張

債務者代理人は債権者の右主張に対し次のように認否並に主張をした。

第一、債権者主張の第一の事実はこれを認める。

第二、債権者主張の第二の事実中労働協約第二十四条に債権者主張の定めのあることは認めるが、連合会の性格並に協議を経ていないとの点はこれを否認する。即ち、

一、会社は、経営状態の窮迫を救い再建をはかるために、人員整理以外に方法がないので、債権者の主張するように連合会に人員整理を含む経営方針を示して協議を求め人員整理の已むなき所以を説明し七回にわたつて協議交渉したが、遂に連合会は結論を出すことが出来ないで債権者の主張するような回答をなし、会社は五組合中三組合の原則的承認があつたし、反対の二組合からも何等具体的な再建対策の提案もなく会社の破局が目睫の間に迫つているのに全面的な同意を得る見通しもなく又それを待つ余裕がないので已むなく債権者主張のように経営権の発動を宣言し解雇の意思表示をしたものである。

二、連合会は、設立当初から各単位組合の統一的な共通又は重要事項については、常に会社との団体交渉に任じ来り、これに対しては各単位組合も何等の不服を申立てることなくその統制に服して来たのであつて、右は現実の慣行として遵守されてきたもので、会社が労働協約第二十四条の規定により連合会と協議を重ねたことは当然でもあり最も正しい方法であつたのである。しかして、会社が前記の通り人員整理を必要とする事由を説明して整理基準につき連合会と協議したことは、とりも直さず経営方針に関して協議したことに外ならない。万一協約第二十四条の協議決定を協議し且決定すべきもの乃至は同意と同義に解すべきものとしても、経営方針とか人事の基準は各労働者の労働条件の基準とみることが出来ないから、会社は、組合又は連合会に対し債務を負うに過ぎないもので、これを怠つたからと言つて本件解雇が当然無効になるものではない。尚連合会は前記十二月十日の最終回答後何等協議を続けようとしなかつたから、これによつて、協議権を抛棄したものといわねばならない。従来の運営上から、各単位組合が交渉団体として会社と協議した事項は、各事業場と当該単位組合のみに関する事項に限られ、共通事項については、連合会が唯一の交渉団体として活動してきたもので、賃金に関する事項や会社経営に関する事項は、連合会専属事項として処理され何等の異議も止めなかつたものである。従て、共通事項につき連合会と協議すれば、更に単位組合とこれをすることはありえないのである。仮にそうでないとしても、各単位組合からその役員が連合委員に選出されてその組合の意思及び決定事項を反映させているから、連合会と会社との協議が妥結点を見出しえない以上単位組合との間に全面的な妥結を期待する余地はないのである。また、整理基準そのものに同意しない組合に対し、その基準の実行を協議することは明に不可能であるので、かような場合には、基準の実行につき協議しなかつたとしても協約違反とならないことは明である。

第三、債権者主張の第三の事実中、債権者らがその主張のように組合役員であつたことは争わないが、債権者らの組合活動の活溌の故に会社が前記解雇をなしたとの点及びその余の事実は否認する。

一、会社は、連合会との協議の上或程度の妥結を見た人員整理の基準である。

<1> 出勤状態の悪い者

<2> 技術低位又は非能率の者

<3> 勤務怠慢の者

<4> 社規を紊した者又は業務命令に違反した者若しくは職場秩序を紊した者

<5> 会社の業務運営に協力しない者

<6> 精神若しくは身体に故障があるか又は虚弱、老衰、疾病のため業務に堪えられない者

の六項目を定め、債権者らがこれに該当するので解雇したもので、債権者らの正当な組合活動の故に解雇したものではない。

二、債権者らが組合活動に活溌であつたというけれども、債権者らの行為は組合活動を逸脱したものであつて、例えば工場内の細胞に属して就業時間中細胞活動をなしアジビラ等を職場に配布して無根の事実を流布し又は針小棒大に会社を誹謗したりするような基準該当の行為であつたのである。債権者らは、いづれも工場内の共産党細胞の一員であり、債権者らの基準該当の事実は、その細胞活動の結果である、細胞は、日本共産党の一組織でその政治綱領、運動方針の実践機関たることを使命とするものであるから、細胞活動の本質は純然たる政治活動で、継続性を持続して終局の政治目的達成まで発展してゆくべきものである。細胞活動は明に組合活動とは異るものであつて、細胞活動が労働法の許容する限度内の経済的目的達成の範囲を出ない場合は一応組合運動の目的と合致しその限りにおいて組合運動の目的と背反しないものがあり得ることは認められるけれども、こうした活動が本質的に政治活動でないとは言えないところで、具体的な行動面においては、総てを政治目的達成のための連関ある組織的な政治活動と認むべきである。勿論労働組合の活動に政治的活動が許されていることを否定は出来ないが、その政治活動はあくまで経済的目的達成に直接関連した附随的なものであるべきで、政治的目的達成を究極の目的とする細胞活動のごときは、到底組合活動とは言い難いのである。特に組合活動を偽装する細胞活動の存在は顕著な事実である。なお、細胞活動は他のいかなる政治活動とも同様に継続性を持続するものであり、解雇の意思表示の到達後或は仮処分決定後の細胞活動も基準該当の事実をなす細胞活動と一連性を有することは疑いのないところであるから、これらの細胞活動を連続的に観察して、基準該当の事実を為す細胞活動を評価すべきである。而して解雇の意思表示到達後或は仮処分決定後の債権者らの細胞活動は最早組合活動のヴエールが取り去られているものでその実体を明瞭に露呈しているものと言える。

三、なお、仮に債権者らについての前記解雇が、不当労働行為となるとするも、労働組合法第七条は旧法と異り、不当解雇を直接罰則の対象とするものでなく、労使関係の実体介入を本義とするものであるから、これに違反した行為といえども当然に無効となるものではない。

第四、債権者主張の第四の仮処分の必要についてはこれを争う。民事訴訟法第七百六十条の「著しき損害」は債権者債務者の利益を比較考量して定めるべきところで、仮に債権者らに対し、被保全利益の存在が認められるとしても、債務者たる会社が仮処分によつて受けるべき苦痛の程度に関連して相対的に決定せらるべきである。而して、仮処分決定後における債権者らの細胞活動は、解雇前にまさるとも劣らないものであつて、債務者らにこの仮処分を許すときは、漸く生産も向上し再建の曙光を見出した会社が、再び生産の低下、業務の阻害を来し崩壊の危機に見舞われるに至るべきことを容易に想像し得るので、仮処分によつて会社の受ける損害はまことに甚大にして、仮処分を許さないことによつて債権者らの受ける損害に到底比すべきでないから、債権者らの仮処分申請は却下さるべきである。

(四)  右主張に対する債権者の主張

債権者代理人は、債務者の右主張に対し次の通り述べた。

職場における共産党員の活動は、職場細胞によつて職場の不平不満をとり上げて、組合の問題にまで発展さすところにその使命がある。従て、細胞活動も、それが経営内の細胞である限りは、組合活動のなかにとけこむものであり、組合活動と一体となるものである。そうすることなくしては、経営内における細胞の活動は事実上行い得ない。細胞活動が組合活動にとけこんだ場合、その細胞の組合活動は、たとえば社会党員の社会党の方針による組合活動が保障されると同様に、組合活動の自由として保障されるものである。会社が、整理基準に該当する行為として、債権者らについてあげている事実は、債権者らが組合活動としてなした事実である。而して、細胞機関紙及びビラ等において「措辞激越」「侮辱的言辞」があつたとしても、それらは労働組合の常用語であり、多くは甚だ抽象的文句で、この種のものとしては控え目なものであり、会社を誹謗したことにはならないのである。細胞機関紙及びビラ等は、労働者の不平不満をとり上げ又労働者を政治的に教育するためのもので、これが同時に正当な組合活動であつたことは、細胞のとり上げた問題が組合によつてとり上げられたことによつて明白である。なお、解雇の当否は、解雇のときを基準にして判断さるべきはもとよりで、この点の会社の主張は当らない。

(五)  疎明資料<省略>

三、理  由

第一、会社が、債権者の主張するように、本店及び工場をもちその従業員がそれぞれ単位組合及び連合会を組織し労働協約を締結していること、会社が、債権者の主張するように、債権者らに対し解雇の意思表示をなしたことは、当事者間に争のないところである。

第二、労働協約第二十四条違反の点

よつて、債権者の主張する労働協約第二十四条の違反について判断する。

一、右協約第二十四条に、「組合は経営権が会社にあることを確認する但し会社は経営の方針人事の基準等経営の基本に関する事項については組合又は連合会と協議決定する」趣旨の定めのあることは、当事者間に争のないところである。

二、いづれも成立を認め得る甲第三号の一乃至十八、第四号の一、第五号の一乃至九、第十三号の一乃至十三、第十五号の一乃至六、乙第二号、第四乃至第七号、第十三乃至第十六号、第十七号の一、二、第十八号、第二十二号、第二十四号、第二十五乃至第二十九号、第六十五号及び証人aの証言、債権者本人A同a(第一回)の各訊問の結果、債務者代表者本人岡崎嘉平太の訊問の結果(以上疎明資料(イ))によれば、一応次の事実が認められる。

(1)  会社の経理状況

会社は、終戦とともに、軍需工業より民間向印刷機内燃機関に主力をおく民需工業に転換したが、重工業界の不振に加えて国家賠償の打切り労働攻勢による賃上要求等の諸要因により極度の赤字経営に陥り遂に昭和二十二年四月末三十%の賃上承認を機として経営陣の総退陣を余儀なくせられ同年六月従業員幹部が会社役員に昇格就任したこと。この頃より会社の経営に疑念をもつ大口債権者興業銀行は一応貸出を止めて事態を静観する態度に出て、その後同年十月更に百%の賃上要求が貫徹するや金融機関は完全に会社に対する融資を断つたため、その後は、会社は高利債の借入売り喰い等によつて辛うじて経営をつづけるほかなかつたが、会社の負債は既に一億に及び一方有効需要の激減にともない会社経営は当時危機寸前にあつたこと。この間に処して、会社は、昭和二十四年三月各工場の独立採算制を実施し再建合理化を図ろうとしたが、生産実績の向上を望むことが出来ず一般的危機の深化によつて所期の目的を達し得ないで同年八月再び綜合経営制に復帰せざるを得なかつたこと。かかる苦境に立つ会社の再建のため招かれて昭和二十四年六月会社顧問となり次で同年八月社長に就任したのが現社長岡崎嘉平太であり、当時労使ともに同社長の銀行融資を背景とする経営的手腕に期待をかけていたこと。かくて、会社は同社長の就任を機としてペイライン月産三千五百万円を目途として、生産計画の促進、監察、生産実績の向上、営業活動の拡大刷新等一連の措置よりなる第二次生産計画を樹立し、会社の再建をこの成否にかけたが、月産実績は生産計画を下廻り昭和二十四年八月より同年十月までの平均月産は三千万円にすぎず、また同年六月から十月までの間に借り入れた運転資金六千万円も殆どこれを費消し、しかも同年十月までの未回収売掛金四千四百万円もこれを担保として三千万円を借入れ、利用し得る原材料としては当時約千万円程度のものを残すに過ぎない実情にあり、その上工作機械の見通しも困難となり他の競争会社と比較して製品のコストは高く販売条件も不利であり一般経済事情の変化に伴い販売上の困難を目前に控えるに至つたこと。ここにおいて、会社は、かかる第二次生産計画の低迷状態を速かに脱却し緊急に危機を未然に最小限度に喰いとめる方策としてとつたのが今次の人員整理であり、経理的には月産の差額月五百万円の赤字を内二百五十万円は経費の節約により内二百五十万円は人件費の削減によりこれを解消すべく従業員中低能率者、出勤不良者、生産を妨げるもの等十%乃至十五%を整理し実働率の向上により生産の維持を図ろうとしたものであること。

(2)  会社と組合の交渉

会社は昭和二十四年十月初頃より人員整理を企図し、十一月十六日労働協約第二十四条により連合会に対し、人員整理を含む経営方針に関する協議を申入れ、連合会は前記五組合の代表を交えて連合闘争委員会を組織して、同月十七日より十二月八日まで六回にわたり協議をしたこと。協議過程の大要は、十一月十七日の協議会において、会社は理由書(乙第十五号)その他の文書を示して人員整理の必要已なき所以及び整理基準を説明した上約十五%の人員整理案を発表し、その後の交渉において、連合会は、これに対し、先づ経営方針について協議に入るべきであり、これなくして整理基準の協議にも入り得ないとし、また会社の現況においても人員整理の必要は認められないと主張したが会社は、人員整理の基本線は動かし得ないとしてこれに応ぜず、整理基準の協議促進を強調するに終始し、結局十二月八日の協議会において整理基準に関する若干の質疑応答並に一部の修正がなされたのみで会社は同日協議を打切り連合会に対し最終回答を求め、連合会は同月十日債権者の主張するような回答を為し、会社は、時日の遷延を許さずとし、綜合経営上個々の工場と接衝し個々の決定は出来兼ねるとして、人員整理の実施を宣し翌十一日前記の如く解雇の意思表示をなすに至つたこと。

三、よつて協議の当否について判断する。

(イ)  右認定の事実によれば、会社の経理状況は前認定の通りであり、かような状態のままで推移することは、結局会社の破滅を意味するに過ぎないから、これに対して、適宜再建の措置を講じなければならないことはいうまでもないところであるが、会社の現状は当時危機寸前にあり、この危機を切り抜けて企業の継続を図るためには早急に合理化体系を整えて金融資本の援助をまつ以外に途のない事情にあつたことが窺われる。而して合理化方策としては人員整理を前提としない組合側の献策も、もとより一理ないわけではないが、第二次生産計画の失敗その他過去の実績に徴し早急にその実効を期し難いものがあると思われるので、今次の人員整理は当時の会社としては緊急已むを得ない措置であつたと認めなければならない。

(ロ)  前認定の会社の協議態度は、通例の場合にあつては、信義をつくさないものとして、労働協約第二十四条違反の責を免れ得ないものといわねばならない。蓋し、同条に「人事の基準」とは、解雇の条件のみならず解雇の要否その範囲等の問題をも含むものと解すべきことは、同条立言の趣旨に徴し明らかであり、従て本件の如き大量解雇の場合においては、解雇の要否、範囲等を決定する必要からもその前提たる経営方針についての協議がなされるべきであるからである。然しながら、人員整理の緊急必要のあることは前認定の通りであり、前記疎明資料によれば、会社の従業員少くともその組合幹部は従来の会社との闘争過程を通じて会社の現状に対しては相当深い認識をもつていたものと推測するに難くないから、組合側としては、労使の立場の相違は暫く措き、会社存続のためには、完全雇傭の線を固執することなく、人員整理の基本線については一応これを譲歩し進んで整理の範囲、整理基準等の協議に入るべきであつたと思われる。もつとも会社の態度においても組合側を納得せしめる上において欠けるところがあつたことは否めないが、組合側の態度においても会社の現状に照し余り自説を固執しすぎたと思われるふしがないわけでもない。かような事情を綜合し、前認定の如く会社が緊急の必要に迫られていたことを併せ考えると、会社の協議会における前認定の態度及び連合会の最後回答を待つて、時日の遷延を許さずとして解雇を発表するに至つた前認定の態度をもつて、あながち協約違反として咎め得ないものがあるといわねばならない。

(ハ)  而して、いづれも成立を認め得る甲第一号第十一号乙第三号の一、二第二十二号証人n同b′の各証言によれば、「連合会は、その出発の初には規約をもち各単位組合の連合体としての実質と形式をもつていたが、昭和二十一年に各単位組合の全部が全日本機器に加入するとともに、その傘下の連合体となりそれまでの規約を破毀したこと。そうして全日本機器の線に沿つた新規約を作るために審議したがまとまらず、昭和二十四年三月に本店及び神明の各組合が全日本機器の後身である全金属を脱退したので連合会の性格も一変し一層規約を作る必要に迫られたが遂にまとまらないまま今日に至つたこと。即ち連合会は、現に規約もなく単位組合に対する統制力ももたないが、各単位組合が企業内において共通する利益に基き統一ある行動をとり共同闘争によつて労働者の地位を向上させることを目的とし、各単位組合の委員長を含む三名の各代表で構成される連合委員会と連合会を代表する連合会委員長をもち単位組合間の行動を調整し会社と団体交渉をする点において一種の組合連合体であることに変りなく、唯、単位組合との関係における決議権やその他の権限の範囲は明らかでなく上下関係はないけれども、少くとも各単位組合に共通する事項については、単位組合が特に反対の意思を表明しない限り連合体にも団体交渉権が認められていたこと」を一応認めることが出来るのであつて、これによれば、単位組合に共通する事項については、会社と連合会との間に団体交渉が行われるときは、その効果は各単位組合にも及ぶものと解さねばならない。従て、本件人員整理について、会社と各単位組合との間で協議がなされたか否かは、連合会と会社との協議の経過によつて判断して差支ないものと考えられるのである。前認定によれば、連合会は、十二月十日の最終回答において、各単位組合が協議の続行を求めていることを告げているので、これを以ては、各単位組合がその協議権を抛棄したものとは解し難く、右は連合会が爾後の折衝を各単位組合の個別交渉に残して手を引いたものと解すべきであるから、会社には尚各単位組合との間に協議をなすべき義務が残つているものといわねばならない。しかし前記疎明資料(疎明資料(イ))によれば、各単位組合は連合会と会社との交渉過程を通じ十分にその協議経過を知つていたはずであり、殊に三田、神明の両組合にあつてはたやすく人員整理の基本線を承認するものとは認められない事情にあり、このことは会社においても推察していたことが、一応認められるので、三田、神明の両組合については個別交渉をつづけても結局妥結することの困難であつたことが窺われ、会社がこの両組合に対し個別交渉をしなかつたとしても、これをもつて協約第二十四条に違反するものということはできない。

(ニ)  経営方針についての協議が、三田、神明の両組合につき以上認定したような事情の下に終つた以上、この協議を前提とする整理基準その他についての協議は以上認定のほか更にこれを為し得る余地のないことは明かであるので、会社がこれをしなかつたからとて、このような事情の下では、これをもつて協約違反であると言うことはできない。

第三、不当労働行為

債権者は、前記解雇は債権者らの組合活動を事由とするものであると主張し、会社は、これを否認し整理基準を設けこれに該当するものを解雇したもので、債権者らの組合活動を事由に解雇したものでないと抗争するので、順次判断する。

一、いづれも成立を認め得る乙第十九号第二十号第三十二号第四十三号第四十四号第五十三号第五十四号の一、二によれば、会社がその主張するような(1)乃至(6)の六項目の整理基準を設け、債権者らに別紙第三表第四表記載のような事実があり同表記載のようにそれぞれ右基準に該当するものとして、前記解雇の意思表示をなしたことを一応認めることができる。

二、よつて、まづ第一選定者目録記載の債権者ら(三田関係)について基準該当の事実の存否並びにその該当の当否について判断する。

(甲)  三田細胞の活動

会社が三田細胞の活動をもつて会社の業務運営を阻害するものとし、機関紙ビラの作成配布その他職場における活動をあげてこれを右債権者らに共通する基準該当の事実としていることは、別紙第三表によつて明かである。よつてまづ、三田細胞のその名における活動を判断し、その余の会社のいう細胞活動の事実については次項で判断する。

(一) いづれも成立を認め得る甲第三十八号第四十一号第四十二号の一、二第四十三号第五十三号第五十四号乙第十二号の一乃至三第四十五号の一、二第四十六乃至第四十八号又び証人c′、同B(第一、二回)の各証言によれば、次の(イ)及び(ロ)のことが一応認められる。

(イ) 三田細胞は、日本共産党の一組織であつて、労働組合である三田分会とは別個の存在であり、債権者らは右細胞の一員であるとともに、他面右組合の組合員であり且組合役員又は所謂職場委員であつたこと。

(ロ) 右細胞は機関紙「主軸」を発行配布し又ビラの作成配布などをなしていたが、昭和二十四年十二月十一日前記解雇の意思表示のあるまでの間、「主軸」に、昭和二十三年四月三十日「能率給に寄せて」昭和二十四年四月十日「池貝を救うものは」同年九月二十六日「扶助規定まで悪用」同年十月二十九日「十八年つとめて残つたものは子供と借金」「ソ同盟と貿易可能」等の主張及び記事を掲げ、昭和二十四年四月頃より同年十月頃までの間に、「我々を苦しめる奴」「行動こそ生きる道」「人間まで赤さびにする雨もり」「池貝に火がついている」等のビラを、また同年十一月二十日頃より同年十二月七日頃までの間に、「首と金がなくて」「俺達は池貝の労働者だ」「部課長は三田をつぶす気だ」「職場をまもろう」「兄弟に訴う」「我々の腹はきまつた」「金が出るまで闘うのだ」等のビラを、いづれも右細胞の名の下に作成して工場その他に配布し、同年十月十一月頃工場内に「池貝のお客さんを殺す奴は誰だ」「諸君は日本の植民地化と三田工場を物置にすることに賛成する気か、これに賛成した部課長の態度は諒解に苦しむ」等の掲示を右細胞の名の下になしたこと。

(二) 債権者は、右は組合活動として為されたもので労働組合法第七条の正当なる組合活動に属すると主張するので、まづこの点を判断する。

右債権者らが三田細胞の一員であるとともに、労働組合三田分会の組合員であることは前認定の通りであるが、細胞の名において為される活動は、団体たる細胞の活動であつて、これを構成する細胞員の活動とは別個に観察すべきもので、細胞員の活動が組合活動であるからと言つて直ちに細胞たる団体の活動が組合活動とは言えないものであるから細胞が組合とは別個の団体で政治目的達成のための団体である限り、たといその活動が組合乃至は組合員のなす組合活動と同様の活動であつても、それは政治活動であつて組合活動たる性質を有せざるものと考えざるを得ない。従て前認定の活動を組合活動であるとは言えない。

一般に細胞の一員が同時に組合員である場合においては、その細胞の一員は、組合活動もなし得るしまた細胞活動もなし得るものと言わねばならないのであつて、外観上組合活動とみられる場合に具体的な活動がそのいずれであるかは、一にそのものゝ意思によつて決定するほかなく、しかして、それは外部に現われた行動その他で判断するほかない。尤も細胞の細胞員に対する統制がそのものゝ組合員として活動する意思を排除するほどのものであれば、そのものゝ活動はすべて細胞に帰せらるべきで、組合員としての組合活動の余地は全くないものと言わねばならない。一般に細胞の統制力の強大であることは首肯し得るところであるが、本件において、三田細胞がその細胞員に対しその組合員として活動する意思を排除するほどに統制していることは、これを認めるに足る疎明がなく、却て前記疎明によれば、細胞が組合員たる細胞の一員に対し組合員としての活動を為さしめることによつてその目的に資せようとしていることが窺われるのである。細胞の一員たる組合員の組合活動が細胞の目的達成に役立つことは、細胞がそれを目的としている限り当然の結果であつて、これがため細胞の一員である組合員の組合活動の性質を変えるものでない。細胞の決議によりその方針の下に組合活動をしても、組合活動をなす意思を排除しない限り、組合活動であつて、その結果細胞の目的達成に役立つことは間接の関係たるに過ぎないものと考えざるを得ない。このように右債権者らが細胞の活動をなすほか、組合員として組合活動をなすことが出来るとせば、右債権者らの具体的活動がそのいづれであるかは、前述のようにその意思によつて定めるほかない。而して、前認定の如く細胞の名において活動する場合においては、その細胞員の活動は細胞のためにすることを明かにしたものでそれは一に細胞活動であつて組合活動ではないと言わねばならない。また、この場合に同時に組合員として活動する意思が現われていてもかような活動は、これを労働組合法第七条の関係において考える限り、同条にいわゆる組合活動には含まれないものと解するのが相当である。蓋し、これは従業員の名においてなせば同条の保護を受け得るのに併せて政党の名を附するときは同条の保護を受けられない結果を来すが、同条は正当なる組合活動を保護するもので政党の名における政治活動その他を直接に保護せんとするものでないから、組合活動が必然的に政党の名による活動を伴うもの又は組合活動が政党の名による活動を伴つてはじめて実効を来し得るとしない限り、かように考えざるを得ないであろう。従つて前認定の活動はいづれの点から見てもこれを労働組合法第七条にいわゆる組合活動とは言えないものである。

(三) いづれも成立を認め得る甲第二十二号第三十八号第四十三号第七十四号証人Bの証言(第一回)によれば、三田細胞においては細胞会議は全員出席して行われ細胞の決議に従つてビラ貼り等をなすこと右債権者らは細胞員として活溌に活動していたことが一応認められるので反対の疎明のない限り右債権者らが前認定の細胞の活動についてはこれに参劃し協議していたものと一応認めざるを得ない。尤も細胞機関紙「主軸」には責任者又は発行者の記載があるが、右疎明によれば、機関紙の発行配布が細胞活動の一環として細胞の方針に基いて為されることが窺われるので、機関紙について責任者又は発行者以外のものに何等の責任のないことの疎明のない限り機関紙についても一応細胞員は責任を負うものと認めざるを得ない。従つて右債権者らはいづれも前認定の細胞活動のすべてにつきその責に任ずべきものと言わざるを得ない。

(四) 而して、前認定の事実によれば、三田細胞の前記活動は、勿論従業員の声をとり上げこれを一般に知らせて労働者の意識の向上や団結を鼓吹し或は労働条件改善のための闘争を鼓吹している面もあるが、「池貝のお客さんを殺す奴は誰だ」「我々を苦しめる奴」のように政治的目的を主として為されたものもあり、また「部課長は三田をつぶす気だ」「諸君は日本植民地化と三田を物置にすることに賛成する気かこれに賛成した部課長の態度は諒解に苦しむ」「扶助規定の悪用」のように真実と異つた印象を考え職制や会社に対する反感を起させる意図の窺われるものもあり、更に「行動こそ生きる道」のように多数で重役に交渉することを鼓吹していると見られるものや、組合と会社が交渉しているのに組合とは全く別個に或はこれに沿わないことを強調宣伝したりしたものがあつて、前記細胞が政治的目的のために従業員の意識を燃え立たせ、それに役立たせる目的のために前記活動をしてきたことが窺われる。前認定のことは、それが専ら労働者の一般的意識の向上を目的とするものであつても、経済的対立者としての資本家一般又は政治的社会的対立者一般を対象として論議するのではなく債務者会社そのものを論議の対象とし、しかも職制や会社に対する反感を助長したり会社の経営につき真実と異つた印象を与えたり多数の者が押しかけることを煽動しているものは、従業員に動揺を与え作業意慾を害することがないとは言えないので、これは会社の業務の運営を阻害するものと言わねばならない。特に前記疎明によれば当時会社は給料を遅配していて三田工場の従業員の不満不安は甚しく何時これが激発するかも知れぬ状態にあり現に昭和二十四年四月以来屡々いわゆる職場ストが生じていたことが認められ、このような事情の下においては、右のような機関紙ビラ掲示は通常の場合と異り従業員を刺戟することも強くその不満不安を激発して異常の昂奮に陥らしめることのあることも見易いところであり、一方会社がこれを苦痛とし耐え難いものとすることも無理からぬところであろう。従つて会社が以上の事実につき右債権者らに責任ありとし、これを基準(5)或は(4)に該当せしめたのは理由のあることと言わざるを得ない。

(乙)  個々の基準該当事実

(一) いづれも成立を認め得る甲第一号第六、七号第十号の一、第十七号第二十二号の一乃至八第二十三号第三十二号第三十三号第三十四号第三十七号第五十八号乙第三十四号第三十六乃至第三十八号第四十号第四十四号第五十号の一、第五十四号の二、第五十九号第六十号第六十二号及び証人B(第二回)の証言によれば、一応次のことが認められるが其の他の別紙第三表記載の事実(前認定の細胞活動を除く)は右疏明資料を比較検討するときは、これを認めるに不十分にして結局疏明が足らないものとするほかない。

(イ) A――一、昭和二十三年九月九日当時全日本機器支部執行委員であつたが午前九時右支部に行くと称して会社を出て右支部には行かず終日会社に帰らなかつたこと。二、係員の注意を無視して作業中従業員に対し給料遅配の報告を為しそのため従業員の作業を中止せしめたこと(2)給料遅配について高利の個人債によつてこれを支払うことを主張し工場幹部にも要求したこと(3)残業及び能率給制を労働強化であると反対したこと三、作業をはなれることが多く昭和二十四年五月より十一月までの作業成績が四十四名中第四十三位であつたこと。

(ロ) G――一、作業をはなれることが多く昭和二十四年七月より十一月までの作業成績が二十五名中第二十四位であつたこと、二、(1)給料遅配に関して昭和二十四年四月七日、七月二十三日、九月二十七日作業時間中に職場大会を開き作業を抛棄して工場幹部に交渉したこと(2)給料遅配についていわゆる圧力交渉を従業員に対し主張したこと、三、工場幹部との交渉等において「無能な幹部はやめろ」とか「血も涙もない畜生だ」と暴言を言つたこと。

(ハ) F――四、作業時間中席をはなれることが多く作業成績が五名中第五位であつたこと、五、(1)給料遅配に関し昭和二十四年七月二十三日及び九月二十七日に職場大会を開き作業を抛棄して工場幹部に交渉したこと、(2)給料遅配について圧力交渉を主張したこと。

(ニ) C――一、作業時間中屡々席をはなれること。

(ホ) B――一、作業につくことが少く組合事務所で過すことの多かつたこと。

(ヘ) D――一、作業時間中屡々席をはなれること、四、昭和二十三年十一月より昭和二十四年十月までの間遅刻が四十五回早退七回と言う勤務状態であつたこと。

(ト) E――一、作業時間中席をはなれることが多かつたこと。

(チ) K――一、昭和二十四年六月頃作業時間中私物を作つていたこと及び作業時間中に茶を沸すため焼入工場に出入し又設備のないところで焚火をしたこと。

(リ) M――一、作業時間中席をはなれることが多く昭和二十四年メーデー前に半日組合事務所にいたこと、二、昭和二十四年二月より九月までの間給料遅配に関し圧力交渉を主張し従業員をして部課長に交渉に行かしめたこと。

(ヌ) R――一、作業時間中屡々席をはなれたこと。

(二) 右認定の事実中、会社は、A、G、Mの各二及びFの五の事実を細胞活動として為されたものとしているが、同人等が三田細胞の一員であることは前認定の通りであるも三田細胞と細胞員の関係が前認定の如しとせば、同人等の活動にも細胞活動たるものと組合活動たるものとがあり、そのいずれであるかは同人等の意思によつて定める外ないものと考えられるところ、同人等が右所為を為すにつき細胞の名において為したこと或は細胞の決議により専ら細胞活動としてこれを為したことについては、これを認め得る疏明が十分でないので、右事実はその性質上一応いづれも組合活動の性質を有すものとみざるを得ないのである。尤も右所為が右細胞の目的に副うものであることはこれを窺い得ないものではないがこれがため組合活動たる性質を変えるものでないことは前記説示の通りである。従つて、これらの事実が基準に当るか否かの判定についても組合活動たる性質を有するものとして評価しなければならないものである。

(三) 而して、右Aの一、の事実は、当時同人が専従者の届出をしていたか否かは明でないが、前記疏明によれば、当時は就業時間中の組合活動が相当広く認められていたこと同人がその頃専従者の届出をなし当時専従者同様に活動していたこと、また地区協議会の幹事として活動していて同日そのための用務もあつたことが窺われるので、これをもつて直ちに基準(4)に該当するとなすは当を得ないものと考えざるを得ない。右Aの二、Gの二、三、Fの五、Mの二、の事実は、会社において基準(4)に該当するものとしているが、前記疏明によれば、当時会社は給料を遅配し一箇月の給料を五、六回乃至十二、三回に分割して支払い少い時は一回百円二百円の時もあり、それも約束の時を過ぎて支払われるような事情にあつたこと、かような事情の下においては従業員の不満不安も自然強く職場の規律も弛緩し、些細なことでも従業員の不満不安を激発し、従業員が通常の場合と異る昂奮に駆られるようになることは容易に推知し得るところであつて、組合もまたこれを放置するの已むなき事情にあつたことが認められるので、右債権者らの前記行動が右状勢を助長したとしても同人等も従業員の一員として前同様の不満不安に駆られていたものと見ざるを得ないから、特にかかる状勢を利用して会社に反抗させ混乱に陥しいれることを目的としたことについて十分なる疏明のない限り、これをもつて直に基準(4)に該当すると為すは、前記疏明によつて、右の如き状勢を来すにつき会社にも一半の責任のないことはないことが窺われる場合においては、相手方のみを責めるに急であるとの非難を免れ難く公正を欠き、妥当にあらざるものと考えざるを得ない。右Aの三、Gの一、Fの四、C、B、D、E、MRの各一の事実は、いづれも会社において基準(5)に該当するとしているものであるが、前記疏明によれば、同人等は組合役員又は職場の委員として組合活動をしていたものであり、旧協約の時代においては、就業時間中の組合活動も相当広く認められていたこと、作業成績の悪いことや席をはなれることの多いことは右の組合活動による場合のあることが一応認められるので、組合活動以外のため席をはなれ作業をしないことの疏明のない限り、これをもつて直に基準(5)に該当するとは為し得ないものと考える。尤も就業時間中に組合活動が許されているからとて、これを濫用し作業をしない場合は業務の運営に協力しないものと言い得るも、本件においては、これらの事情が十分に疏明されているとは為し難い。右Kの一、事実中、焼入工場に出入し又は焚火をしたことは前記疏明によれば、他にも斯様な所為のあつたものが認められ、一にその程度如何によつて基準(4)に該当するか否かを判定する外ないが、この点についての十分な疏明がないから右事実をもつて直ちに基準(4)に該当するに由ない。右一、の事実中私物を作つた点及び右Dの四の事実は、これをそれぞれ基準(4)(5)に該当するとなすも敢て不当とは言えない。

(丙)  以上のように会社が解雇の理由として挙げている事実は、その一部が基準該当と認められ、或いはその事実の存在は認められても組合活動の故をもつて結局基準該当とすることが不当とされ又は従業員に帰責せしめることが使用者として不公正とされるものもあり、その他は事実そのものの存在が一応否定せられるのである。よつて右債権者等の解雇が労働組合の正当な行為をしたことの故をもつてなされたか否かを検討する。前記疏明及び債務者会社の代表者岡崎嘉平太の本人訊問の結果によれば、債務者会社は池貝を窮乏に追込んだ最大原因の一つが細胞活動にあり右債権者等が三田細胞の有力な指導者として会社の経営方針を誹謗し工場の業務運営を阻害させるような細胞の方針を樹立しその実行に積極的にあたつたとしていることから会社はかねてより三田細胞の活動を嫌忌し今次整理に際し同細胞中の有力者を排除したことが疏明せられる。前記疏明によれば三田細胞は昭和二十一年六月結成以来細胞自体としてまた細胞構成員の組合員としての活動によつて、組合員の意識を高め組合大会や執行委員会をリードして数次の賃上要求の先頭に立ち組合をして会社との協定に成功せしめ団結の推進体を形成してきたものであるがその間三田細胞の排撃が組合内部から自主的に行われたような事実はなくむしろ組合員の大多数は要求の根本においてこれと同一の線を自主的に保持決定してきたものと一応認められる。これらの事実を綜合すると会社の右解雇は三田細胞の構成員による正当な組合活動を排除することを目的としたのではないかとの疑いがないわけではない。しかし三田細胞がその細胞員の組合活動によつて組合団結の推進体を形成したからといつて、熱心な組合活動者が企業整理の場合にその対象から除外される特権を有しないと同様、細胞の有力者もまた整理対象から除外される理由はなく、それは一に右債権者らの解雇が組合員としての正当な組合活動を理由とすること、即ち正当な組合活動をしないでいたとすれば解雇されなかつたであろうとの因果関係の存すること、別言すればかかる活溌な組合活動があり又は会社が組合活動に対し善意をもつていたとしても、企業維持のため一定人員を整理する場合、それだけで独立して解雇に値する理由がないかどうか(表面にかかげる理由が客観的にみて些細な而も問題とするに足りないことであつて単なる口実にすぎないかどうか)の観点からこれを決定しなければならない。

ところで三田細胞の活動としてその疏明ありとせられたのは前認定の事実であり会社の眼中にある三田細胞の活動全体からみると量的にはその一部であり又会社が細胞活動の一環とする給料遅配時のいわゆる職場スト職場離脱その他の言動は機関紙ビラ配布よりも脅威を感じたであろうことは容易に推測せられるのである。換言すれば会社は機関紙ビラ配布だけを池貝窮乏の原因としたとは到底認めることはできない。しかし量的にはその一部であつても機関紙ビラによる活動は細胞の重要なる宣伝活動であることは否定しがたく、会社が常時この活動を注目しかつ嫌忌し脅威を感じていたことはこれを認むるに足り、しかもその内容において前認定の如しとすれば、たといそれが会社を破壊する目的であるとの疏明がなくとも又会社が脅威を感ずる度合において機関紙ビラの配布以外の細胞活動との間に軽重があるとしても、なお、業務運営の阻害となることに変りはない。労働組合が政治活動に参加しまた政党を支持することを許されていることはいうまでもないところであるが、組合活動をするために企業内に政党を結成し当該企業の労働者の地位向上のための活動をしても、政党の名の下にその会社を誹謗し業務の運営を阻害するかぎり、いかに労働組合のため貢献したとしても、政党の名による活動が労働組合法第七条の保護を受けないことは前記のとおりである。三田細胞の機関紙ビラ配布による細胞活動は右認定の限度においても会社の業務運営を阻害しこれに協力しないものと認められる以上、一定人員を整理せざるを得ない要請の前には会社がこれを取上げて解雇事由に該当するとしても、これをもつて単なる仮装的理由又は不公正な取扱といえないのであつて、同人等が組合活動を熱心に行わなかつたとしてもそれだけで実質的にも解雇に値する事由となるものと考える。

従つて債権者等の解雇は、前に認められた細胞活動の限度においてもなお、右の細胞活動そのものを理由とするものと一応認められるのであつて、職場スト、職場離脱その他組合活動として正当視された債権者等の活動又はその他の正当な組合活動が本件解雇の決定的原因であるとして不当労働行為を根拠ずける疏明は不充分といわざるをえない。

然らば、前記解雇の意思表示の到達によつて右債権者らは解雇されたものと言うべきで、右債権者らが本件仮処分において保全さるべきものとしている法律関係は結局その疏明のないことになるので、他の点の判断をするまでもなく右債権者の仮処分の申請は理由のないものと言わねばならない。

三、次に第二選定者目録記載のもの(神明関係)について基準該当の事実の存否並にその当否について判断する。

(一)  いづれも成立を認め得る甲第一号第八、九号第十号の二第二十六乃至第三十号第三十三号第五十五号第五十七号第五十九号乙第三十号第三十九号第四十三号第五十号の二第五十三号第六十号第六十一号第六十三号及び証人n、d′、e′、fの各証言並に債権者aの本人訊問の結果(第一、二回)によれば、

(イ) a――一、昭和二十一年四月より昭和二十四年三月までの間就業実績の少かつたこと。二、昭和二十四年五月頃より細胞機関紙の編輯印刷等のため多少の就業時間をこれに費したこと三、昭和二十二年十二月頃事務所において「共産党員でなければ真の労働者でない」と言つたこと及び東宝争議に際し組合大会において池貝の再建が緊急であるとの意見に対し「労働者的立場に立脚すれば池貝の一企業が破滅すること位は止むを得ない」と言つたこと四、細胞機関紙において「生産計画に大穴があいた」なる記事を掲載したこと。

(ロ) n――一、昭和二十三年十月以降残業したのは十二月一回二月三回のみで他の残業を拒否したこと二、会社の提案せる能率給制施行案について「労働者は唯搾取されるばかりであるこのような制度に賛成することは反組合的である。単に註文を多くとり生産をあげることは労働者を労働強化に追込むに役立つだけである」等言つて反対したこと三、作業実績の少ないこと。

(ハ) k――一、就業時間中アカハタを読んだりこれを配布したこと、二、昭和二十四年二月より七月まで数回に亙りいわゆる職場ストに参加したこと三、稼働率の少ないこと。

(ニ) f――一、屡々職場をはなれ組合事務所に出入していたこと。二、昭和二十四年二月より七月までの間いわゆる職場ストに参加したこと。

(ホ) s――一、就業時間中屡々席をはなれ組合事務所に出入していたこと。二、アカハタを配布し就業時間に数分かかることのあつたこと。三、就業時間中に入党の勧告をしたこと。四、就業時間中女子従業員を集めて話をしていたこと。

は、一応これを認めることができるが、

(ヘ) b――一、入党勧告したことはこれを認め得るも、就業時間中であることについては疏明十分でなくまたこれに要した時間場所等の条件をほかにしては基準(3)に該当するか否かを判断するに十分でないがかような疏明が十分でない。二、生産復興会議の指導的メンバーであつたこと及び会社の施策を批判したことは認め得るも会社を誹謗し従業員を非協力に煽動指導したことはこれを認めるに足る疏明が十分でない。

(ト) n――一、非能率者であるとの点は、同人が終戦前において技術成績が上位であつたことが前記疏明によつて認められるので、非能率な具体的事実の疏明のない限りその疏明があつたものとは言えない。

(チ) b――一、昭和二十四年五月サボの主導者となり既に作業を開始した第一作業区平削盤の作業者に対し強制的にモーターのスウイツチを切らせた事実については、これについての疏明が直接的でないため債権者の提出する反対の疏明と対照するときは心証を生ずるに難く結局疏明十分とは言えない。

(リ) s――一、「三鷹事件の真相」なるパンフレットを職場において販売したことは認め得るも就業時間なりとの点については十分なる疏明がない。

その他別紙第四表記載の他の事実はいづれもこれを認めるべき疏明が十分でない。

(二)  会社は右債権者らは、いづれも神明細胞の一員であつて、右は同細胞の活動として為されたもので組合活動たる性質を有するものでないとしているが、前記疏明により右債権者らが神明細胞の一員であり同細胞が日本共産党の一組織であつて労働組合である神明組合とは別個の団体であることが認められるので右認定の事実中aの二、及び四、k及びsのアカハタ配布の事実並にsの入党勧告の事実は、これを組合活動と認むるに由なきも、その余の事実は、右債権者等が細胞の一員であるからと言つて直ちにこれを組合活動たる性質を有するものでないと言うことは出来ない。前記疏明によれば、神明細胞と細胞員との関係が前記三田細胞と同様であることの明である以上、債権者らの右所為が組合員たる意思を排除して為されたものと認められる疏明のない本件において、これを組合活動でないと言うことはできない。右事実はその性質上いづれも一応組合員たる地位において為された活動たることをうしなわないものと為さざるを得ない。

(三)  よつて、右認定の事実につき基準該当の当否を案ずるに、

(イ) a、n及びkがいづれも就業実績又は稼働率の少ないこと及びfが終始組合事務所に出入し作業をはなれていたことは前認定の通りであるが、前記疎明によれば同人等が当時組合の役員として活動して居り、特に岡田は組合役員のほか民生委員をもなして居り、給料遅配の下においては、これらの者の用務も自然多いこと及び旧協約の時代にあつては就業時間中の組合活動が許されていたことが一応認められるので、かような事情の下では、組合の用務のないのにこれに名を藉り就業を怠つたこと、又は、組合の用務以外の事情にて就業しなかつたことの認められる疎明のない限り、これをもつて基準(3)或は(5)に該当せしめるは根拠不十分と言わざるを得ないが、本件においては、このような疎明が十分とは言えない。

(ロ) aが細胞機関紙の発行のため多少の就業時間をこれに費したこと、岡田が就業時間中アカハタを読んだりこれを配布したこと小沢が就業時間中入党勧告をしたり、アカハタを配布したこと(aの二、kの一、sの二及び三)は前認定の通りで、これは基準(4)或は(5)に該当しないとは言えないが、前記疎明によれば、a及びsはいづれも僅かの時間就業時間に喰いこんだものでありkは機械操作の待時間を利用してなしたこと及び当時給料遅配のため職場の規律も自然弛緩して居り特にこれらにつき注意のなされなかつたことが一応認められるので、多くこれを咎めることはできないものと言わねばならない。

(ハ) a及びnが前記各二、三記載のように言つたことは前認定の通りであるが、前記疎明の範囲では、これらは労働者の意識昂揚についての見解を表明し或は労働者の一般的立場から批判をしたものと認むるほか、それ以外に従業員の作業意慾の低下等を意図したことを認むるに由ないから、これらを前記の如く組合活動の範囲を出でないものと認むる限り、これを基準(4)或は(5)に該当せしめるは妥当とは言えない。

(ニ) aが細胞機関紙に前記の如き記事を掲載したことは前認定の通りであるが、疎明の範囲では記事の内容必ずしも明でなく前記甲第十八号と対照してみると従業員の会社に対する協力心を阻害し或は会社の施策を誹謗したことを認めるに由ないものと言わねばならぬ。従てこれをもつて直ちに基準(4)に該当するものとはなし難いと言わねばならぬ。

(ホ) nの残業拒否の事実は前認定の通りである。而して、神明工場においては、昭和二十二年九月六日附神明分会委員長より神明工場長宛「労働基準法施行に当り時間外勤務取扱に関する件」と題する文書に基いて「原則として一週間実働四十二時間を確保し、已むを得ない場合は基準法により組合と協定する必要なき範囲で時間外勤務を命ずることが出来る。なお基準法により組合と協定を要する場合にはその都度承認を得る」との方針で行われて来たが昭和二十四年八月七日に神明分会と会社との間に時間外労働に関する正式の協定が結ばれ「時間外勤務手当は当月内に確実に支払うこと、時間外勤務は作業計画上真に必要なるもののみに限定すること、時間外勤務の割当は公正妥当なること、各人については隔日(週三回)二時間勤務となるようにしそれを越えないことを原則とすること」等の諸事項が定められ、その後若干の修正を経たが大差なく同年十一月九日組合より会社に対し「二時間以上の残業の拒否、二時間以内の残業及び臨出の拒否返上も職場の自主的決定に一任する」との通告の為されるまで右協定が実施されて来たことが認められる。従て組合と会社の間で協定がなされた以上組合員は協定に服する義務があり、正当な理由なくして、会社の残業命令を拒否することは許されないものと言わねばならない。ところが右nにおいては、右残業拒否の正当の理由につき十分なる疎明がないので、右は基準(4)に該当するものと為さざるを得ない。

(ヘ) k及びfが前記職場ストに参加したことは前認定の通りであるが、前記疎明によれば、当時会社においては給料の遅払い甚しくて一箇月五、六囘乃至十二、三囘に分割して支払われ一回百円二百円のこともあつて、従業員は不満と不安のうちに作業していたことが一応認められ、かような事情の下においては、些細のことより不満が激発し不安に駆られて異常の昂奮に陥るは、み易きところであつて前記k及びfにおいて斯かる状況を利用して混乱に陥れんとする意図の疎明せられざる限り同人等が従業員の一員として前認定の行動を為したからとてこれを直に基準(4)に該当せしめるは公正を欠くものと為さざるを得ない。

(ト) sが屡々組合事務所に出入し席をはなれたことは前認定の通りであるが前記疎明によれば同人は組合と会社との連絡の用務をなし、また文房用具の借用のため組合事務所に出入したことが認められる以上右用務以外のため席をはなれ組合事務所に出入したことについての疎明のない本件においてはこれを基準(4)に該当せしめることはできない。また同人が女子従業員を集めて話をしていた事実は前認定の通りであるが、前記疎明によれば女子従業員に対し特に一定の教育時間が認められていたこと及び就業時間中の組合活動が許されていたことの認められる以上右がこれらのために為されたものでないことの疎明の十分でない本件においては、これをもつて基準(5)に該当せしめることはできないと言わねばならない。

(四)  以上の如く、会社が解雇の理由としている事実は、aの二、nの一、kの一、sの二及び三の事実を除いては、いづれも疎明不十分か或は基準に該当せしめるに由ないものであり、またaらの右事実はこれを基準に当らないものとは為し得ないが、同人等の前記解雇理由と対照するときは解雇の主要なる理由は他にありこれが解雇の主要なる理由であるとは認められないものと言わねばならない。従つて前記疎明によれば右債権者らはいづれも組合の役員として活溌に活動してきたことが認められ、会社が解雇の理由とした理由書記載の事実と前記の如く基準に該当しないものとされた事実とに対照し債務者会社代表者岡崎嘉平太の本人訊問の結果をこれと綜合して考えれば、特段の事情のない本件においては、前記解雇は右債権者らの組合活動を支配的な動機としたものと一応認めざるを得ない。

(五)  なお、会社は、右債権者らの細胞活動をもつて会社の業務運営を阻害するものとなし、これを解雇理由としているかの如くであるが、前記神明細胞の如何なる活動が会社の業務運営を阻害したかについては、何等これを認むべき疎明資料がないのでその当否の判断の余地がない。尤も会社は前記解雇後細胞の活動につき多くの疎明資料を提出し、その中には会社の主張に沿うもののあることを認められないわけではないが、これをもつて当時における右細胞の具体的活動を疎明するに由なきことはもとより、昭和二十五年一月のコミンホルムの日本共産党批判によりその後その活動に変化を来したと言われる事情に照すときは、これをもつて直に会社のいうように当時において既に神明細胞が破壊的でその存在が会社の業務運営を阻害したこと及び同細胞が細胞員の組合員として活動する意思を排除していたことを肯認するには由なきものと言わざるを得ない。

(六)  然らば、会社の前記債務者らに対する前記解雇は労働組合法第七条第一号に違反する所為にして、その意思表示は効力を生じないものと解するを相当とすると考えるから、右債権者らと会社の間には従前の労働契約に基く法律関係がなお存するものと言わざるを得ない。

第四、仮処分の必要性

前記、a、b、n、f、k、sらが会社を唯一の職場とし、賃金によつて生活を維持していることは前記疎明によりこれを推認し得るところであり、斯様な事情のもとにおいては、特段の事情なき限り、不当労働行為として解雇が無効であるに拘らず、本案判決確定にいたるまで、解雇せられたものとして賃金の支払、就業の点で差別待遇を受けることは、甚しい損害であり精神的苦痛も甚大であることは、一応認めざるを得ないところである。会社は、債務者が仮処分によつて蒙る損害が債権者がその求める仮処分の為されないため受ける損害より大なる事情は民事訴訟法第七百六十条の仮処分の必要を判断するにつき斟酌されるべきであると主張するが、かような事情は債務者に保証を立てしめることによつて仮処分の目的を達し得るとなす一つの事情であつて、仮処分命令の内容の適否仮処分の取消の事情としては考慮さるべきであるが、仮処分の必要そのものには何等の消長を来さないものと解するのを相当と考える。同条の仮処分の必要は、甚しき損害を避け若しは急迫なる強暴を防ぐため又はその他の理由により判断されるべきで、甚しき損害を避ける場合は、原則として債権者の損害について判断されるべきもので、このゆえにこそ特別事情による仮処分の取消その他が認められているものと解せざるを得ない。本件において、会社が前記債権者らの細胞活動のため損害を受けるようになつたとしても、会社の企業の規模、細胞の人数等を考へると他に疎明のない限りこれをもつて直に民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情に当るものとは為し難く、他に仮処分取消の特別事情のあるものと認めるに足る疎明がない。然らば前記債権者らには仮処分の必要があるものとすべきところ、債権者と債務者の間に労働関係の存否につき争があり、仮にこれを設定するは、労働者は労務を提供し使用者はその対価として賃金を支払う法律関係を設定或は強制するものであつて、かような双務契約の関係を設定する場合は通常この関係をそのまま設定することが適当であつて、この両者の義務を別個に扱い、或は労務の提供の義務のみを命じ或は賃金の支払義務のみを命ずるは、双務契約の関係と異る関係を来すことになり特段の事情なき限り適当とは言えないものと考えられる。本件においてこれをみるに、賃金支払義務の設定のみにて仮処分の目的を達し得るとの事情の認むべきものがないので、前記通常の場合に副う趣旨にて、賃金の支払を労務の提供に関連せしめて命じたものと解せられる原決定は、これを相当と考えざるを得ないもので特に変更の要の認められないものである。

第五、以上の次第であつて、債権者Aの本件仮処分申請は理由なく債権者aの本件仮処分申請は理由があるもので、これと異る原決定は右範囲内において取消すを相当とするので、原決定中別紙第一選定者目録記載の選定者A外九名に関する部分を取消しその仮処分申請を却下し別紙第二選定者目録記載の選定者a外五名に関する部分はこれを認可すべきものとして民事訴訟法第九十二条第九十三条第九十五条第七百三十六条の二を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 緒方節郎)

〔別紙〕(選定者目録省略)

第三表(三田関係解雇理由)<省略>

第四表(神明関係解雇理由)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!